おはぎは食いたし……

 

 

 

 

 

 

 

晴れ。8度。

7時に起きる。カーテンを開けたら、息を呑む日の出。ソファに座り、その一部始終を見る。

朝餉は、蜂蜜とヨーグルトをかけたバナナ、キャベツと大根のサラダ、味噌汁(玉葱・人参・小松菜・油揚げ・豆腐・シメジ)、卵とハムのトーストサンドイッチ、ルイボスティ。食後にコーヒー。

 

宇治拾遺ものがたりより――

 

 むかしのこと。

 比叡山にひとりの稚児がいた。

 ある夜、坊さんたちが夜のひまをもてあまして、

 「おはぎでも作ろうか」

と言うのを、かたわらにいて耳にした。

 うれしくて待ち遠しかったけれど、できあがるのを、寝ないで待っているのも体裁が悪く、いつもの寝る時間になると、片すみに寄って寝ころんだ。寝入ったようなかっこうだけはして、おはぎのできるのを、わくわくしながら、いまかいまかと待っていた。

 やがてできたのであろう、坊さんたちが集まってがやがや騒いでいる。

 ――きっと起こしてくれるだろう。

 そう思ってこの稚児が待っていると、案の定、ひとりの坊さんが声をかけてくれた。

 「もしもし、お起きなさいな」

 稚児はうれしかった。声の下からとび起きそうになった。が、そこで考えた。

 ――待てよ。一度呼ばれてすぐに返事したら、狸寝入りをして待ってたのだとわかってしまうだろうな。ちょっとぐあいがわるいや。よし、もう一度呼ばれてから返事しよう。

 すぐに起きだしたいのを稚児はがまんした。ところが、別の坊さんがこんなことを言っている。

 「いやいや、起こしなさるな、かわいそうに。あの子はぐっすり寝入っているのだから」

 稚児は泣けてきそうになった。

 ――しまった。えらいことになった。どうぞもう一度呼んでくれますように。

 けれど、聞こえてくるのは、むしゃむしゃとおはぎを食う音ばかり。もうなんともしようがない。やぶれかぶれ、ずいぶん遅い返事を、

 「はい」

 と大声に叫んだ。

 

夕餉は、佃煮、おでん、玄米ご飯、赤ワイン。食後に焙じ茶、クッキー。

妻と夜空を見上げながら散歩。頬がこわばっていく。

十八夜くらいの月が雲間から覗く。同じような月をどれくらい見上げてきただろう。それらは過ぎ去ったわけでも、戻ってこないわけでもない。今も、同じ時間にこうして登って輝いている。

時間などあってないようなものだ。

僕らは死ぬけれど、生きた記憶はずっと漂いつづける。