乾いた会話に一滴の

 

 

 

 

 

晴れ。23度。
7時に起きる。
朝餉は、蜂蜜とヨーグルトをかけたバナナ・リンゴ、サラダ(サニーレタス・キュウリ・大根・チーズ・バジル)、ハムと目玉焼き、味噌汁(大根の葉・油揚げ・豆腐・玉葱・人参)、バターのトースト、アールグレイ。食後にコーヒー。
外はどんどん暖かくなり、昼前には汗ばむほどに。家の中は、たとえばソファーの脚とかハンガーに吊るしたい服のあたりにひんやりした空気が残っている。
ベッドのシーツを春に合わせる。妻が羽毛布団をしまった。今冬はぼくらにとって試練が続いた。大きな方向転換も余儀なくされたし、夫婦という関係性をイヤでも考えることになった。季節はうつろう。
昼餉は抜き。
コーマック・マッカーシー著『通り過ぎゆく者』より——

 知識不足で何を質問していいかすらわからんだろう。
 あんたの人生であんたの身に起きたことで一番意味のあったことはなんだ。
 おれの人生で。
 そう。
 よし、ナムだ。それで。
 それでおれの身に起きなかったことで一番意味のあったことはなんなんだ。
 ちっ。
 なんでもいいから話してくれ。何か話してくれ。何もわからない馬鹿に話しているんじゃないというふりをして。
 おれは説明なんてしたくないんだがな。
 説明はしなくていい。解釈は自分でする。
 わかったよ。まったくもう。着陸地帯に何人かを拾いに行く途中でロケット弾を食らって墜落したときおれは東洋人を何人も撃ち殺したが結局おれが脱出させたのはおれ自身だけだった。いやもう一人連れ出したんだがその男は結局死んだ。おれも何発か撃たれた。それだけの話だ。ほかの連中はまだ向こうにいる。鬱蒼としたジャングルに骨が散らばってる。あいつらは勲章を貰ってないんだ。ほかに何が知りたい。
 たぶんおれは自分が何を経験し損ねたのか知りたいんだと思う。
 おまえは何も経験し損ねちゃいねえよ。
 言いたいことはわかるだろう。
 これになんの意味があるんだ、ボビー。賢かったのはおまえでおれじゃない。おれは二回の勤務期間をこなした。一回の勤務期間は海兵隊の場合十三カ月。十八九の若造でトンカチみたいに頭の悪いやつがそういうことをするんだよ。
 オイラーはビールの瓶をとって飲み椅子の背にもたれ親指でラベルをいじった。それからウェスタンを見た。
 話を続けてくれ。

マッカーシーの乾いた会話部分には、アメリカ人の魂のようなものがある。ナムとはベトナムのことで、従軍した男なら誰でもナムと言う。そして、ナムであった多くのことは滅多なことでは語らない。彼ら同士での話を除けば。
夕餉は、オクラと竹輪の磯辺揚げ、大根の皮と人参のきんぴら、鶏胸肉と玉葱のシェルマカロニ・グラタン、味噌汁(大根の葉・ネギ・小松菜・油揚げ・豆腐・人参)、玄米ご飯、赤ワイン。食後にコーヒー、チョコレート。