幸田文全集との邂逅

 

 

 

 

 

晴れ。18度。
7時に起きる。
朝餉は、蜂蜜とヨーグルトをかけたバナナ・リンゴ、サラダ(サニーレタス・キャベツ・大根・大豆煮・チーズ・カニカマ・バジル)、味噌汁(小松菜・油揚げ・豆腐・玉葱・人参)、卵サンドイッチ、アールグレイ。食後にコーヒー。
注文しておいた古書が届く。幸田文著『幸田文全集 第一巻』、『同 第四巻』(岩波書店)。
第一巻の冒頭『菅野の記』の書き出しはこんな感じである——

 なんにしても、ひどい暑さだつた。それに雨といふものが降らなかつた。あの年の関東のあの暑さは、焦土の暑さだつたと云うよりほかないものだと、私はいまも思つてゐる。前年の夏だつてその前の夏だつて暑かつたのだらうが、日本はまだ戦つてゐた。誰の眼にも旗色は悪く、戦争の疲労と倦怠になげやりになつてゐたとは云へ、それでもみんなそれぞれの親を子を兄弟を砲弾の下に送つてゐ、自分たちもいつ空襲に死ぬかわからない恐怖で、暑さなんぞに負けてはゐられなかった。

刊行は30年前だが、届いた古書は新刊のよう。頁を繰ると三菱製紙が抄造した紙のいい匂いがする。月報を書いているお三方がこれまたすごい。三省堂が前世紀末に送り出した全集本は老舗とそこに集う紙屋、印刷屋、製本屋の息づきがある。作家の嗜好がちゃんと映っている。
前の持ち主は有隣堂でお求めになったと見えて、丸背の上製本は布装に書店カバーがかかっていた。立派な外函も誇らしげ。職人の腕が存分にふるわれている。お売りになったわけは想像に難くない。売却したのは子どもさんたちだろう。
妻と公園へ。桜はぼちぼち咲いている。
昼餉は、妻の握ったおにぎり、ピスタチオのペーストを塗った食パン、コーヒー。
数日前に他界されたマウリツィオ・ポリーニさんのバッハを聴いている。さらさらとして、滑らかで、遅滞とはおよそ縁遠いのに、余韻は打ち込まれた楔のごとし。合掌。
夕餉は、味噌汁(シメジ・小松菜・油揚げ・豆腐)、フレンチフライと人参のグラッセを添えた鶏ひき肉のハンバーグ、赤ワイン、ウィスキー・オンザロック。