着つづける

 

曇り、のち晴れ。8度。

7時に起きる。

朝餉は、大根の皮のきんぴら、小松菜とウインナーソーセージのクリーム煮、目玉焼き、ゴボウのスープ、トースト。食後にコーヒー。

鎌倉シャツがニューヨークに店を出したときのことを書いた先代の社長さんの文章は、こんなふうな内容だったと記憶している。

日本人が、襟もカフスも付いたちゃんとしたシャツを本場のニューヨークで売る。それは感慨深いものだったと。生地も縫製も自信はあった。

開店すると、ニューヨーカーがたくさん訪れてくれた。だが、売り上げはなかなか伸びなかった。どうしてだろう? 社長さんは考え続けていた。

ある日、一人の客が、彼に語ってくれたという。

——しっかりした作りだね。ちゃんとしている。だが、肝心なことがわかっていないんじゃないかな。キミのシャツには、すべて胸にポケットが付いている。だがね、ビジネスで着るシャツには、ポケットを付けない。それが、ドレスコードだと思うけどな。

 

それを聞いた彼は、頭を殴られたようなショックを受ける。品質なら負けないという自負を持っていた。だが、いちばん肝心なことに思いが及んでいなかった。

昼餉は、妻の作った生クリームをのせたバナナ・ホットケーキ、コーヒーゼリー、コーヒー。

このエピソードが僕は好きだ。シャツの歴史に思い至るその瞬間まで、彼には余裕というものがなかった。

シャツを身に纏う。その時間の流れ方を知ってこそのシャツという存在。

ニューヨークに店を出すことのほんとうの意義は、そういうところにあったのだと知る。

夕餉は、納豆、豚バラ肉の肉どうふ、ホッケの開き、味噌汁(大根・人参・ほうれん草・豆腐・揚げ)、ご飯。食後にコーヒー、梅餅。

身の回りの整頓をはじめてから、この話を知った。僕のシャツは、ほとんどが鎌倉シャツで求めたもので、それも最小限を残すのみとなっていた。

結局、シャツはそのまま残っている。気負いなく、普通に着つづける。それがシャツの残りの時間だと思い定めた。

 

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