440キロを13時間で

 

降ったり止んだり。たまに日差し。32度。

5時に起きる。台風は九州の西側を北上している。当初より最大風速は小さい。

荷物をまとめ、水道の元栓を閉じ、雨戸を引いて。

6時過ぎに家を出る。妻とクルマで東を目指す。3ヶ月ぶりの家。高速道路は使わず、街の道、県道、国道をとろとろ走る。岐阜、長野、山梨、埼玉、東京の道。

稲刈りを待つ田んぼ。収穫の終わったトマト畑。庭先、校庭、軒下、道の駅。道端に座っているお年寄り。子どもを見ない。

ハンドルはもっぱら妻が握って、僕は景色に見入ったり。霧と雨の大菩薩峠も彼女が昇って降りた。

朝餉は、菓子パンを齧る。そこここで求めたお握り、水。

この国の風景はいつの間にか変わっている。そこ此処に見え隠れしているのに、具体的に言えない。変化はそうやって忍び寄る。

遅い昼餉は、信州でざる蕎麦。

クルマの小さな異音を妻が心配する。

そんなの、気にしていたらキリがない。僕はいつもそう言う。

どちらかが無頓着にならなければ「そのこと」の行き場はなくなる。この世の均衡は、そうやって保たれている。そう信じていれば、均衡は安定していくのだ。「そのこと」に疑いを挟むことなかれ、と均衡の女神は戒める。

小さな異音だから許されること。「そのこと」がいつも小さな異音とは限らないのだ。僕は、そのことを戒める。

7時過ぎに到着。尻も腰も痛い。

夕餉は、買い求めたおこわ弁当、ずんだお萩。

最後の50キロくらいの運転を代わってやる。日が落ちると、妻は見えなくなる。

少し真剣に飛ばす。妻が固唾を飲んでいる。

 

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