20世紀最大の小説と、石の対比がもたらすもの

 

 

 

 

 

 

晴れ。13度。

7時に起きる。

朝餉は、小松菜のお浸し、刻んだ大葉をまぜた卵焼き大根おろし添え、ピーマンとジャコの甘辛煮、味噌汁(油揚げ・豆腐・シメジ・ネギ・大根・人参・玉葱・大根の葉)、玄米ご飯。食後にコーヒー、小豆饅頭。

メリハリがあって、誰からも好まれる。そんなわかりやすい味が好みではなくなりつつある。噛むほどにじわりと湧き出てくる味を探している。食べ終えてから気づくような、控えめの極地のような味。

そのためには、ほんのちょっとした変化をとらえられるように、それを信じて味つけができるように自分の味蕾を育てなければ、と。こんな歳でそんな悠長なことを語っていていいのか。そんなごくわずかの疑心暗鬼とたたかうとは……。

Ulyssesというエディタアプリの本質は、つまるところファイル管理の手法に尽きる、と勝手に思っている。ぼくはそれがわからないままだった。特有の理屈を今さら理解しようという度量はなかった、というのが正直なところだろうか(ファイル管理はしょせん階層構造の把握でしかないといまだに思っている)。

Ulyssesは日本語との相性が良くないこともあって、ちょっと悩ましいのだが、stoneをまた使いつつある。二つのアプリは対極にある。stoneには最低限の機能さえ揃っていない。それを今さら疑うつもりはない。アプリとしては新しい世代に入るのに、登場したときから枯淡の風情をまとっている。stoneで文章を書いていると、世の中から取り残されたような気分におそわれたりもする。巡りめぐって、それが最先端なのかもしれない。最低限度とはいかなるものかという考察を抜きにして、stoneとは向き合えない。まさに、極北のエディタといえる。

Ulyssesのアップデートは、この世のサイクルに合わせて届く。最新の世界情勢をレポートしてくれているかのようだ。一方のstoneは、アップデートされたのはいつのことだったろう。まだ開発は続いているのだろうか、と簡素な画面に問いかけたくなる。画面に向かっていると、自分が数寄者みたいに思えてくる。そんなアプリはstoneをおいてほかにない。

妻の昼餉は、昨夜の鍋の残りで作ったおじや。食後にきな粉をまぶした草団子、コーヒー。

妻と散歩へ。途中でハンバーガーと紅茶。

札幌の姉より電話。懇意にしている方の通夜のことなど。

stoneは、邪魔しない。あらゆる意味において。しゃしゃり出てきて主張したりしない。みずからの存在を消し去ろうとしているようにさえ感じる。便利だと思ってもらうおうとは、どうやら露ほども思っていない。逆説的にいえば、ではいったいどいうレベルで誰と競っているのか、と問いただしたくなる。そして、それこそがstoneの思惑であることに気づかなければ、stoneとの邂逅が訪れることはない。アプリが宿命的に背負わされている機能拡大の競争と訣別している。競っていないという一点において、stoneは競っている。そういうアプリがほかにあるのか、ぼくは寡聞にして知らない。

それでは、競っている相手は何者なのか。思うにその何者とは、ヒトの根源的な欲望というものではあるまいか。ソフトウェアという商品に完成はない。終わりなき開発が続いているだけなので、ぼくらは欲深い気持ちを持続させられる。それは途切れることのないエクスタシーといってもいい。

stoneはその欲深さと逆方向のベクトルで競っているような気がしてならない。機能は付加しない、これで終わりです、とstoneは言っている。あなたの尽きぬ欲望はstoneでは満たされませんよ、と。ある意味でこれほどショッキングな告白をしているアプリは存在しない。

stoneは、使いはじめた瞬間からそれを語り続けている。どうぞ、目の前の画面に集中してくださいと。もう提案はなにもありませんので、と。わかりやすすぎて、逆にわかりにくい。ぼくらは、stoneについてというよりもstoneがもたらしている非存在というピュアな恩恵を享受しているにすぎない。

ソフトウェアの逆説的効能というものがあるとしたら、stoneが示しているのは、明解な答えのひとつだろう。stoneを人物格として書いてきたけれど、とりもなおさずそう考えて世に送り出した人々がstoneの裏にはいるわけで、ぼくは彼らの意志にある種の深い信頼を寄せている。彼らのもとには、付加してほしい最低限度の機能のリクエストがたくさんあっただろうと思う。彼らがその声に忠実ではなかったことは今のstoneを見ればわかることだ。その意志に、ぼくは平伏する。

夕餉は、妻の作ったレンコンの甘酢和え、茹でブロッコリーのマヨネーズ和え、焼き鮭、味噌汁(シメジ・ネギ・油揚げ・豆腐・大根・人参・玉葱)、玄米ご飯、ビール。食後にシュークリーム、コーヒー。

Appleは、iOS 17.4のβ1を再リリースした。