軽やかな巨躯

 

晴れ、時々曇り。8度。

6時に起きる。

朝餉は、柿。

母と姉に挨拶をして、妻と家を辞す。

道央道を走って、一路、旭川へ。妻がかねてより切望していた旭山動物園へ。

昼前に着く。3時半の閉園まで、2人して体が冷え切るのも忘れて見入る。そんなふうに根を詰め、息をするのさえ忘れてしまったように動物を見たのは初めてかもしれない。動物たちとの距離がほぼゼロの動物園を僕らは見たことがなかった。

圧倒され、打ちのめされる。

ペンギンやシロクマ、ゴマフアザラシといった旭山動物園ならではの鳴り物入りは、予備知識があったにもかかわらず驚きの連続だった。だが、もっとも驚かされたのはカバとか白ヒョウといった地味めな演出の生き物の方だった。とくに水中から見た泳ぐカバは、妻とふたりして時の経つもの忘れてしまう。

昼餉は、バナナ、ロールケーキ、ミルク紅茶。

土産物の建物で絵本なんかを見ていると、どこかで見たことのあるオッサンがいる。妻に、小声で教えた。

今年亡くなられた山本寛斎さんとの対談を見て、その飾らない人柄にこれまた打ちのめされたことを思い出す。来館者は、目先のキーホルダーなんかに夢中なのか気づいていない。着古した作業服の姿はサルの世話係みたいだった。

園長さんである。

僕らは、深く頭を下げてから建物を出た。

コロナ禍で来園者は少ないと思う。小さな動物園をここまで育て上げたのは、一人ひとりの熱意と動物を愛する心だったろう。専門家や同業者が瞠目したのは、同じ心を持ちながら、なぜ旭山動物園だけが違ったのか、その差がいまだにわからないからではないかと思う。北の小さな町の誇りは、だが、今も喘いでいる。

日が暮れかかり、冷たい風が吹き始めた。

体はすっかり凍えて、震えが止まらない。その先には風邪が待っている。予感があった。

ホテルにチェックインして、とりあえず温泉に浸かった。それでも芯はまだ凍っている。

夕食を求めて、妻とまた寒風の外へ。

駅前の飲食街は、人もまばらで火は灯っているのに、ガラス越しの席はどこも人気がなかった。目当ての店は休業しており、僕らは仕方なく地元の焼肉屋に入った。肉がそれほど食べられない妻はビビンバをメインに、それでもカルビやラムを頬張り、ビールを飲んだ。

父や母のこと、姉のことを話しながら。

動物たちのことは、なぜか一言も話さず。

 

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