何が答えかなんてわからない

雨。
七時に起きる。開け放して寝た窓から雨音が聞こえる。涼気が足元を流れる。秋めく。
朝餉は、女房の作った玉子ハムサンド、即席みそ汁、ミルク。
自宅もこちらも、棲むという感じじゃないね。女房が呟く。
この歳になって僕らは流れ者みたいな日々だが、それならそれでいいと思ったりもする。ひとつところで膿んだように暮らすより二億倍はいい。
その昔、僕らは中流という名の暮らしをただ闇雲に追い求めたものだ。ほとんどは幻想だったが、車窓を流れすぎる元は中流とおぼしき家々の灯を眺めていると、郷愁ともつかぬ甘酸っぱいものが満ちてくる。それは紛れもない幻想の根っこなのだが、ありそうで実はどこにも存在しなかったそういう暮らしの風景はいったい誰が考え出したのだろう。
昼餉は、ざる蕎麦とトースト。
女房はカフェで税理士と会う。
彦根の菓子司で返礼を見繕い、元同僚へ手紙を添えて送る。奥方が作ったブルーベリーと梅のジャムは絶品だった。
宅地の真ん中の畑に聳える名もわからない大木のことを考えていた女房は、森林組合の催しである森林塾の講座に申し込んでみた。そこに何かヒントがあるかもしれないと思って。
すると、すんなり受講できることになってしまった。今どき、チェーンソーの使い方を千円払って習いたいという輩は十五人もいないらしい。
森林塾では、林に入りチェーンソーで伐採し、枝を払って搬出するまでを1日で習うという。女房は、すぐ定員になって断られると思っていた。今ごろになって尻込みしている。何はともあれホームセンターで長靴を求める。それが最低限の用意だ。

好きなことは、木の伐採

そいつはカッコいいなぁ、と背中を押してやる。僕が去年やったボランティアの草刈りより、同じモーターを使うなら三億倍くらいいい。
森林塾で答えは見つかるだろうか。たぶんないと思う。だが、だからどうだというのだ。
夕餉は、高野豆腐と野菜炒め、きしめん、赤ワイン、黒酢と蜂蜜のジュース。