三週目に

おおむね晴れ。夏日。
五時前に起きる。
ちょっと疲れている。躰より、むしろ気分のほうかもしれない。
そういえば、夏に被っている白いつば広の帽子を女房が送ってくれた。それを着用して病院へ行くと、母も父もなにやら遠くを見るような眼差しになる。
母は、死んだ祖父にそっくりだという。
父は、僕を僕だと認識できない。慌てて帽子を取っても、ぽかんとしている。
父よ……。病院の階段を降りながら、嘆息する。
二週間の期限付き病室から母が三階へ引っ越す。父と同じフロアで、開け放したドアの外をリハビリ中の父が療法士と通り過ぎていく。その様子を母はじっと見ている。
病室を去るにあたって、母は同室の一人ひとりに時間をかけて挨拶をした。
二親とも車椅子という患者が同じフロアにいる。一人息子と覚しき人と僕は日を置かず顔を合わている。そして、そのたび挨拶をしている。彼も笑顔を絶やさない。
疑心暗鬼の母は、どこかで自分の病気が重篤なのではと疑っている。僕らがそれを伏せているに違いないと。治りかけているのに、気弱なことを口にする。
郷里の女房がiPhoneを落としてガラスを割ったという。指をなぞっていると、ガラスが刺さると。十分でガラスを交換してくれるショップが東京にあるから、しばしの我慢だと教えてやる。
自分は行ってもいない戦争の話しをして、姉は父を哀しい気分にさせている。五分後には忘れているのに、そういう話しをわざわざするなんて悪趣味だ。そのことを帰ってから言う。厚顔無恥このうえないが、それだけは言わずにおいた。
夕方、九キロをジョグ。