店主の声

 

 

 

 

 

 

 

 

晴れ、のち雨。11度。

7時に起きる。

朝餉は、蜂蜜とヨーグルトをかけたバナナ・リンゴ、キャベツ・大根・バジルのサラダ、味噌汁(大根・キャベツ・人参・玉葱・油揚げ・小松菜・豆腐)、チーズ・卵焼き・ハムのトーストサンドイッチ、アールグレイ。

 

 

昼餉は、チーズケーキ、煎餅、妻の淹れたコーヒー。

買い物のついでに古書店へ、6冊ほど求める。半日居ても飽きない馴染みの店は、2月はずっと閉店していた。古書を求めて全国の好事家を渡り歩いていたのか、そうなのであれば留守番を買って出たい。

井伏鱒二著『釣師・釣場』(新潮文庫)

村上春樹著『ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック』(中公文庫)

オラフ・ステープルドン著、浜口稔訳『スターメイカー』(ちくま文庫)

内田百閒著『内田百閒集成3 冥途』(ちくま文庫)

渋谷章著『牧野富太郎 私は草木の精である』(平凡社ライブラリー)

藤田嗣治著『藤田嗣治画文集「猫の本」』(講談社)

 

店に入った時、店主は棚の本を揃えていた。目があって、挨拶をした。彼はレジの奥に座り、僕は哲学の棚へ歩み寄った。哲学、宗教、文化人類学、比較文明学、古代学の品揃えは厳選されていて、背表紙を眺めているだけでも胸がいっぱいになる。

すると店主がなにやら声をあげた。話しかけているような抑揚の声。

呼びかけられたと思って、僕はレジの方へ目をやったけれど、店主の姿は棚に隠れている。変な話だが、僕らは話したことがないのだ。

またもや声……語りかけるような声。

――はい?

と声を出そうとした瞬間、彼の声が今度ははっきり聞こえた。

「アレクサ、おんがくをかけて……」

公園の梅の花を見に行く途中で、その話をした。もうちょっとで、返事をするところだったよ、文学の棚にいた妻に話す。

あたしも、返事しそうになった。

妻は笑って言葉を継いだ。

アレクサって、アマゾンだっけ?

妻の作った夕餉はクリームシチュー、玄米ご飯、レモン酎ハイ。食後に、歌舞伎揚。

Siriとどうも折り合いがつかない妻は、3回目でリクエストを叶えたアレクサにも興味がないらしい。

アレクサが流した最初の曲は、映画『Once Upon a Time in America』のエンニオ・モリコーネが作ったテーマ曲だった。

店主か、アレクサか。どっちの趣味なのかちょっと気になった。