巨星

 

 

 

 

 

 

 

 

晴れ。13度。

7時に起きる。

朝餉は、蜂蜜とヨーグルトをかけたバナナ、クリームシチューの残り、バタートースト、アールグレイ。

昨日の雪が残る。

バート・バカラックが8日に亡くなっていた。94歳まで生きた。

彼のメロディーは、彼の声紋のように固有のものだった。コール・ポーターの曲がそうであったように。それ以上だったかもしれない。

ぴょんぴょん飛び跳ねるように、目にみえるように五線譜に記すと、下から上まで縦横にオタマジャクシが行き交っていた。スコアを使い切ったというのがふさわしい。そういう曲ばかりだった。

誰もが追悼を込めて、お気に入りを表明していることだろう。それが手向けになると思うので、倣おうと思う。

僕の3位は1965年の映画『WHAT'S NEW, PUSSYCAT?』の主題歌。ウディ・アレンが脚本を書いている。ピーター・オトゥール、ピーター・セラーズ、ロミー・シュナイダーという名優の共演によるドタバタコメディだった。3人の出身国イギリス、アメリカ、フランスの共作になっている。邦題「何かいいことないか子猫ちゃん」はそのまま主題歌となり、トム・ジョーンズが歌っている。チャーミングな歌曲だったが、僕はいまだにハミングするときがある。

2位は1981年の映画『Arthur』の主題歌。クリストファー・クロスが歌った「Arthur's Theme (Best That You Can Do)」。作曲者名にバカラックが名を連ねている。邦題「ニューヨーク・シティ・セレナーデ」のほうがわかりやすいけれど、これもけっこうなドタバタだったにもかかわらず、どこか切ない映画だった。ダドリー・ムーア、ライザ・ミネリの演技も良かったけれど、サー・ジョン・ギールグッドがアカデミーの助演男優賞をとっている。

僕はアメリカからの仕事帰りに飛行機で見ている。

1位は甲乙つけがたいので2つ。

1969年の映画『The April Fools(邦題:しあわせはパリで)』の主題歌。カトリーヌ・ドヌーヴとジャック・レモンの共演は最高だった。主題歌はディオンヌ・ワーウックが歌っているはずだがサントラ盤にはなぜかパーシー・フェイスのオーケストラが収められている。音盤の版権が引っかかっているらしい。ディオンヌの歌声は最高だ。なんだかんだいって、この曲がバカラック・ベストだと思う。

この映画は長らくDVD化されることがなかった。どれほど熱望されたかわからないが、2017年6月にやっと日の目を見た。

昼餉は、洋食屋でハンバーグ定食。ドーナッツ屋でオールドファッションと紅茶。

2曲目の1位は映画『Casino Royale(邦題:007 カジノロワイヤル)』のテーマ音楽。ピーター・セラーズ、ウルスラ・アンドレス、デヴィッド・ニーヴン、オーソン・ウェルズ、ウディ・アレンが繰り広げるドタバタ劇だが、バカラックのテーマは、ハーブ・アルパート&ザ・ティファナ・ブラスを起用した軽快でオシャレなチューン。これも聞けばすぐわかるバカラック節が散りばめられている。ウキウキする曲調のなかにほんの少しだけドタバタの感じが漂う。

4本の映画はすべてドタバタ劇だが、どれも今では作ろうにも作れない。支える俳優がいない。監督がいない。こういう時代があったなんて夢のようだ。

夕餉は、味噌汁(シメジ・玉葱・人参・大根・キャベツ・油揚げ・豆腐)、チャーハン、赤ワイン。食後にドーナッツ、チャイティー。

バート・バカラックは映画音楽ばかりではない。でも映画館に流れていた彼の音楽を聴かなかったら、これらの映画は別物になっていただろう。そういう意味では、ニューシネマの代表作の一つ『Butch Cassidy and the Sundance Kid(邦題:明日に向かって撃て!)』の主題歌はセンセーショナルだった。あの時のキャサリン・ロスとポール・ニューマンほど切ないものはない。