終わり方の難しさ

 

 

 

 

 

 

曇り、ときどき日差し。29度。

7時に起きる。

朝餉は、蜂蜜とヨーグルトをかけたバナナとメロン、柘榴ジュース、コーヒー。

 

『105歳の料理人 ローズの愛と笑いと復讐』から、ちょっと長い引用を――

 

 ある晩、レストランを閉めたわたしのあとをチーターがつけてきた。たまたまそのひと晩だけ歩いて帰ることになって、わたしはラッキーだった。真夜中近く、船を吹き飛ばすような強風が吹きつけ、通りに人影はない。強盗にはおあつらえ向きの条件がそろっていた。ユイル広場まできたところで、肩越しにちらっと目をやり、チーターがわたしを追い越そうとしているのに気づく。わたしはいきなりうしろを振り向き、チーターのほっぺたにグロック17を突きつけた。口径9ミリ、17連発。小さいけれど優れものの拳銃だ。わたしはその顔に向かって怒鳴った。

「ばかやろう、百歳のばあさんから身ぐる剥ぐよりほかに、ましなことはできないのかい?」

「なんにもしてませんよ。奥さん、なんにもするつもりはない。誓いますよ」

 チーターはじっとしていられなかった。縄跳びをする女の子というところ。

「ひとつ法則がある」とわたしは言った。「男が誓うのはいつも、うしろ暗いことがあるときだ」

「間違いないですよ、奥さん、散歩してたんです。散歩してただけです」

「いいかい、まぬけ。この風じゃ、わたしが引き金を引いても、だれにも聞こえない。だから、選ぶしかないね。生きて還りたいんなら、昼間、盗んだガラクタごと、その袋を寄こしなさい。困っている人にやるから」

 わたしはグロックを人差指のように突きつけた。

「二度と私につかまるんじゃないよ。今度、わたしに見つかったら、どうなるか、思っただけでもぞっとする。さあ、いきな!」

 チーターは袋を投げ捨てて走り出し、安全なところまで離れると叫んだ。

「くそばばあ! あんたはただのいかれたくそばばあだ!」

 そのあと、わたしは袋の中身、時計やブレスレット、携帯電話に財布を、そこからいくらも離れていないエティエンヌ・ドルヴ通りにたむろして酔いを醒ましていたホームレスの群れに押しつけた。ホームレスたちは恐れと驚きの入り混じった顔つきで、わたしにお礼を言った。そのうちのひとりは、あんた、いかれてるねと言った。わたしは答えた。そう言われたのは初めてじゃない。

 翌日、隣のバーのオーナーがわたしに注意した。きのうの夜、ユイル広場でまただれかが拳銃で脅された。今回、脅したのは年寄りの女だとか。わたしがわっと笑い出したとき、オーナーは狐につままれたような顔をした。

 

悪くないエピソードだけれど、最初のセリフがなぜだか気にかかる。なぜだろう?

空が明るくなってからこちら、気温がどんどん上がっていく。窓という窓を開け放って、それでも開けられる窓がないか見回すような日が続く。

エアコンは妻がコンセントをずっと抜いたままだ。怖くて挿し込めない。壊れてでもいようものなら……。

ガスの給湯器、エアコン、それに便器――この国の困窮は、この3つに集約されて久しい。

昼餉は、妻の作ったトマト味のジャガイモニョッキ、蜂蜜をかけたトースト、コーヒー。

酒を求める。Teacher’sの『Highland Cream』。

義姉からメッセージ。中学生の又姪がメッセージのやりとりをしたいのだという。学校が支給しているiPadには聞きなれないアプリがインストールされていて、それに対応できるのはGoogle Chatだと義姉から教えてもらってiPhoneにインストールする。

又姪はブラスバンドに入ってクラリネットを吹いている。それに授業でギターを爪弾く。

ある日、今はない義母の家に遊びに来ていて、妻の古いヤマハのギターを弾き始めた。そのギターの音色が尋常ではない。たどたどしいのに、心に染み入る。そのことを又姪に伝えた。上手になるよりその音を大事にするんだよ、忘れちゃダメだよと。

さて、デジタルで繋がったものの又姪はそれっきりだ。

夕餉は、モヤシのナムル、ヒジキ煮、こんにゃくと竹輪・さつま揚げの磯辺炒め、味噌汁(玉葱・人参・シメジ・油揚げ・豆腐・キャベツ・ネギ)、とろろ玄米ご飯、ウィスキー・オンザロック。食後にチョコレート。

プーチンは必ず勝つと言う。だが道のりは険しいだろうと専門家は言う。休戦協定を結ぶとしたら、それはどんな状況になったときだろうと誰もが考え始めて久しい。

ゼレンスキー大統領は、領土からロシア軍一掃するときだと語っている。クリミア半島さえ取り戻す気でいると思う。